副 腎 皮 質 癌 の 1 例
大阪医科大学泌尿器科学教室(主任:宮崎 重教授)
東 治人,岡田 茂樹,福原 雅之 井上 裕之,清水 篤,高崎 登
ADRENOCORTICAL CARCINOMA: REPORT OF A CASE
Haruhito Azuma, Shigeki Okada, Masayuki Fukuhara, Hiroshi Inoue, Atushi Shimizu and Noboru Takasaki
From the Department of Urology, Osaka Medical School
A 24-year-old man visited our hospital complaining of hypertension and headache. Endocrino- logical findings revealed no abnormalities except for a slight decrease in serum adrenocorticotropic hormone (ACTH), a slight increase in urine 17-ketosteroid (17-KS), and a marked increase in serum pregnenolone. Computed tomography and magnetic resonance imaging revealed a 3x3 cm mass in the right adrenal area and I131-adsterol scintigraphy demonstrated a high absorption of the isotope in the right adrenal area. Vena cavography suggested a 2x2 cm tumor thrombus originat- ing in the right adrenal. Under the diagnosis of the right adrenocortical carcinoma, adrenolectomy and removal of the tumor thrombus were performed. Both serum pregnenolone and urine 17-KS returned to the normal level within a week after the operation and blood pressure was well control- led without any medication 3 months after the operation. Thus, the tumor seemed to be endo- crinologically active.
Key words: Adrenocortical carcinoma
(Acta Urol. Jpn. 37: 259-261, 1991)
緒 言
副腎皮質癌は稀な疾患で, その発生頻度は全悪性腫 瘍の約0.2% といわれ、 臨床的には内分泌活性型と非 活性型に分類されている. 内分泌活性型ではクッシン グ症候群や男性化などの特異的な症状を呈することが 多いが、今回われわれは、高血圧とそれに伴う頭痛以 外には特徴的な症状がみられなかった内分泌活性型副 腎皮質癌の1例を経験したので,文献的考察を加えて 報告する.
症 例
患者:24歳,男性
主訴:高血圧,頭痛
既往歴·家族歴:特記すべきことなし
現病歴:1985年頃より健康診断にて収縮期圧が 200 mmHg 以上の高血圧を指摘されていたが、 自覚症状 がないため放置していた. 1988年8月頃より拍動性の 頭痛を自覚するようになり,同年9月5日本院第3内 科を受診した. 内分泌学的検査および画像診断の結 果,右副腎腫瘍が疑われたため当科へ転科となった.
入院時現症:身長 168 cm,体重 64 kg,血圧 180/ 120 mmHg,脈拍 60/min,他に特記すべきことなし.
入院時検査成績:血液生化学検査および α-FP, CEA などの腫瘍マーカーには異常は認められなかっ た. 内分泌学的検査 では, 血清 ACTH の軽度低下 と尿中 17-KS の軽度上昇および血清プレグネノロン の著明な上昇を認めたが,血清コルチゾール,アルド
| 血漿 ACTH | 10 | pg/ml (↓) |
| 血漿コルチゾール | 9.8 | ug/dl ☒ |
| 尿中 17-OHCS | 11.9 mg/day ☒ | |
| 尿中 17-KS | 18 mg/day (+) | |
| 血清プレグネノロン | 10.5 ng/ml (↑) | |
| 血清 DHEA-S | 1340 ng/ml | |
| 血漿テストステロン | 8.2 ng/ml | |
| 血漿レニン | 0.4 ng/ml/hr | |
| 血漿アルドステロン | 30 pg/ml | |
| 血漿アドレナリン | 16 ng/ml | |
| 血漿ノルアドレナリン | 129 ng/ml | |
| 尿中 VMA | 3.5 mg/day | |
ステロン, テストステロン, カテコラミン, DHEAS および尿中 17-OHCS,VMA はすべて正常範囲内で あった (Table 1).
A160
▼
9201
X
P160
.9
画像診断:腹部 CT では、 右副腎領域に 3×4cm 大の内部不均一な腫瘤像が認められた(Fig. 1). 腹部 MRI では, CT で見られた部位と同部位に腫瘤像が 見られ,右副腎静脈から下大静脈にかけて 1~2cm 大 の腫瘍塞栓と思われる像が認められた(Fig. 2).下大 静脈造影では、右副腎静脈分枝部に直径約 2cm の半 球状の陰影欠損が認めこれ,腫瘍塞栓像と考えられた.
131[ーアドステロール副腎シンチグラフィーでは、右 副腎領域の著明な集積増加と左副腎領域の集積減少が 認められた.
以上より, 右副腎皮質癌と診断し, 1988年11月19 日,全身麻酔下に右副腎および腫瘍塞栓摘除術を施行 した.
手術所見:経腹的に後腹膜腔に達したところ,右腎 上極に接するゴルフボール大の腫瘍と右副腎静脈分岐 部から下大静脈内に浮遊するように存在する腫瘍塞栓 が確認された. 腫瘍および右副腎静脈の周囲組織との 癒着は軽度であった. 右副腎静脈分岐部から上下 2~ 3cm の部位に それぞれ サテンスキー鉗子をかけ,下 大静脈の血流を遮断した後、右副腎静脈分岐部を中心 に下大静脈に楕円形の切開を加え、腫瘍塞栓を含め右
副腎静脈と副腎を一塊として摘除した. 出血量は少量 であった.
摘出標本:大きさは副腎が 37×25×12 mm,腫瘍 塞栓が 18×11×11 mm で、 重量は合計 16g であっ た. 腫瘍は塞栓部を除いて繊維性の被膜で被われてお り、割面は黄褐色で散在性に出血を認めた. 硬度は軟 であった.
こ
→ 尿中 17-KS (正常値 9.0~12.2)
-O- 血清 Pregnenolone(正常値 1.0以下)
尿中 17-KS (mg/day)
血清 Pregnenolone
S 63. 11. 19
(mg/ml)
operation
20-
↓
10-
ㅇ
ㅇ
ㅇ
ㅇ
ㅇ
1 W
2W
3 W
病理組織学的所見:Fig. 3 に示したように,立方 状ないし多稜形の胞体を持った好酸性の強い細胞が核 の大小不同を伴って増殖し, mitosis や多核巨細胞も 認められ,副腎皮質癌と診断された.
術後経過:尿中 17-KS および血清プレグネノロン は術後 1週間以内に正常範囲となり(Fig. 4),術後16 日目に施行した全身アドステロールシンチグラフィ ーでも、特に異常な所見は認められなかった. 術後22 日目より補助療法として、アドリアマイシン、シスプ ラチン, ブレオマイシンの3剤併用による化学療法を
3クール行った. 血圧は術後1ヵ月目頃から低下傾向
を示し、術後 3 ヵ月目には収縮期が 140150 mmHg
拡張期が 8090 mmHg となった. 術後 1年を経過
した現在,外来 にて経過観察中 で あ る が, 腫瘍の再
発,転移を疑わせる所見は認められていない.
考 察
副腎皮質癌は副腎皮質腫瘍の約5%を占め,比較的 稀な疾患であるり、 そのなかでも本症例のように下大 静脈内に腫瘍塞栓を形成する症例は、本邦では過去に 2 例が報告されているのみである5. 本症の男女比は ほぼ2:1 で男性に多く、年齢に関しては、自験例で は24歳と比較的若いが,報告例全体では40~80歳が多 い6) (Fig. 5).
50
男性 女性
40
例
数
30
20
10
0
0
11
21
31
41
51
61
71
81 1
1
1
1
!
|
I
|
I
10
20
30
40
50
60
70
80
年 齢(歳)
副腎皮質癌の臨床症状は内分泌活性型と非活性型と では大きく異なっており,前者ではそれぞれ過剰に産 生れるホルモンによって、クッシング症候群や男性化 などの特異的な症状を呈することが多く、後者では腫 瘍の圧迫による疼痛や全身倦怠感,体重減少ななどの非 特異的な症状が主である、 自験例では臨床症状として 高血圧に伴う頭痛をきたしたが,術前の内分泌学的検 査では特に昇圧作用を有するホルモンの増加は認めら れなかった. しかし、副腎シンチグラフィーでの対側 の集積抑制や手術後の血圧低下という所見から,自験 例にみられた術前の高血圧は、腫瘍細胞から産生され た何らかの昇圧物質によるものと考えられ,自験例は 内分泌活性型に属するものと思われる.
副腎皮質癌の治療は、腫瘍の外科的摘除が第1選択 である、 補助療法として化学療法や放射線療法が有用 であるという報告もあるが、一定の見解は得られてい ない.予後は一般に不良で、本邦での報告例のうち記 載のあった 136 例のうち56例(41%)が診断確定後 1
年以内に死亡している. 予後を左右する因子として, 転移や浸潤の有無,腫瘍の大きさ,病理組織型および 発症年齢などが考えられる. Sullivan らが経験した 手術施行例21例について言えば、術前に転移や浸潤を 認めなかった6例の5年生存率が85%以上であるのに 対して,転移や浸潤を認めた15例のそれは約5%と著 しく低い. また、 転移や浸潤のない腫瘍で直径が 5 cm 以下のものは Sullivan らの 1例と本邦での2例 のみであるが, いずれも術後10年以上生存している. 副腎皮質癌の病理組織型と予後の関係については現在 のところ一定の見解は得られていないようである. 一 方,本邦で術後10年以上生存している症例は、記載の あった限りでは 4例のみで, そのうち3例は10歳以下 の年少者であった。 術後10年以上の生存者が年少者に 多いことの理由が単に早期発見によるものなのかどう かはわからないが、本症の予後改善のためには早期発 見が最も重要であり,臨床症状および内分泌学的検査 で副腎腫瘍が疑われる患者に対しては、アイソープを 含めた各種の画像診断を行うことが重要であると考え られる.
ま と め
高血圧と頭痛以外に特徴的な症状がみられなかった 内分泌活性型副腎皮質癌の1例を報告した. 本症例は 下大静脈におよび腫瘍塞栓を伴った副腎皮質癌として は、文献的に本邦第3例目にあたると思われる.
文 献
1) Henley DJ, ran Heerden JA, Grant CS, et al. : Adrenal cortical carcinoma-a continuing challenge. Surgery 94: 926-931, 1983
2)宮地幸隆:副腎癌(抗腫瘍剤一疾患別抗腫瘍の選 択)臨床成人病(増加号) ·559, 1987
3)坂井誠一,島崎 淳,松寄 理,ほか:副腎皮質 癌の 1例. 西日泌尿 50:1681-1684, 1988
4) Wada T, Kohno N, Takao K, et al .: Clinical features of adrenocortical carcinoma-report of six patients -. J Jpn Cancer Ther 21: 2394-2404, 1986
5)岡住慎一,西沢 直,ほか:下大静脈を経て右心 房·右心室に達する腫瘍塞栓を来した副腎癌の 1 手術例. 日外会誌 88:231-238, 1987
6)土山秀夫:腫瘍と過形成の病理一副腎皮質を場と してー. 日病会誌 76 :3-28, 1987
7) Sullivan M, Boilean M and Hodges CV: Adrenal cortical carcinoma. J Urol 120: 660, 1978
Received on April 12, 1990) Accepted on June 26, 1990/