術前 TAE が有効であった非機能性 巨大副腎皮質癌の1例

湊 のり子,山口唯一郎,古賀 実,菅尾 英木 箕面市立病院泌尿器科

GIANT NON-FUNCTIONING ADRENOCORTICAL CARCINOMA EFFECTIVELY TREATED WITH PREOPERATIVE TRANSARTERIAL EMBOLIZATION : A CASE REPORT

Noriko MINATO, Yuichiro YAMAGUCHI, Minoru KOGA and Hideki SUGAO The Department of Urology, Minoh City Hospital

An 80-year-old women consulted a physician because of weight loss and slight fever. Since a large retroperitoneal tumor was found, the patient was referred to our hospital. Based on abdominal computed tomography, magnetic resonance imaging and blood tests, preoperative diagnosis was non-functioning left adrenal tumor, 13 cm in diameter. Preoperative abdominal angiography revealed that the tumor was supplied blood by the left adrenal artery, left renal artery through left renal upper segment, splenic artery, pancreas tail artery, and middle colic artery. We performed transcatheter arterial embolization (TAE) of some of these tumor-supplying vessels. Three days after the TAE, adrenalectomy was performed without blood transfusion. Histopathological examination of the tumor was adrenocortical carcinoma of low grade malignancy.

(Hinyokika Kiyo 58: 193-196, 2012)

Key words : Adrenocortical carcinoma, Preoperative TAE

緒 言

副腎皮質癌は全悪性腫瘍の0.02%程度とごく稀な腫 瘍であり,大きく内分泌活性腫瘍と非活性腫瘍とに分 けられるが,内分泌活性のないものでは偶発的に画像 診断で見つかることが多いとされている. 今回,われ われは体重減少と発熱を主訴とし、術前に TAE を施 行し無輸血で切除しえた巨大な副腎皮質癌の1例を経 験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

症 例

患者:80歳,女性

主訴:体重減少,微熱

既往歴:高血圧,高脂血症

家族歴:特記事項なし

現病歴:2010年2月頃より食思不振と体重減少あ り, 3月下旬より微熱が続くため近医受診. 腹部超音 波検査で左側腹部に腫瘍を指摘され,当院内科紹介受 診. 画像検査で左副腎腫瘍を疑われ、4月に当科紹介 受診となった.

入院時現症:身長 135 cm,体重 35 kg(4カ月前よ り 8kg 減少). 体温 37.4℃.

入院時検査所見:血液検査では, RBC 3.79 ×106/ μl, Hb 11.7 g/dl と軽度の貧血および LDH 302 U/l と

軽度の上昇がみられたが,副腎機能検査では異常を認 めなかった. CAE, CA19-9 などの腫瘍マーカーは正 常範囲内で, CRP や白血球数上昇などの炎症所見も 認めなかった. 検尿も正常であった.

画像所見:腹部単純 CT では 11×9×11 cm で,患 者体幹の正中に達するほどの巨大な腫瘍内部に斑状の 低吸収域と部分的に微細な石灰化を認め,比較的高吸 収の部分には造影時に強くない造影効果を認めた. 低

Fig. 1. Enhanced CT showed a relatively well- defined tumor exhibiting heterogeneous enhancement and outer layer of the tumor was rich in vessels.
Fig. 2. T2-weighted MRI showed the tumor was heterogeneous signal intensity and compres- sed left kidney, spleen and splenic vessels.

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吸収の部分には造影効果なく、変性壊死の個所と判断 した. 腫瘍の周囲に血管の増生を認めた(Fig. 1). MRI では T2 high の内部不均一な腫瘍を認め,左腎, 脾臓,脾動静脈は圧排されていた(Fig. 2). 以上よ り,左副腎腫瘍の診断で,摘除術を行う方針とした が、腫瘍が大きいため、栄養血管の確認と塞栓目的に 術前に血管造影を行うことにした.

血管造影所見:腫瘍はやや拡張した左副腎動脈から 主に栄養されており、左腎上極を栄養する左腎動脈か らも腫瘍に血管が分岐し新生血管を形成していたため (Fig. 3A),それぞれ超選択的にスポンゼルにて塞栓し た、 また中結腸動脈が総肝動脈から分岐し、一部が下 行結腸を経由して栄養動脈となっており、これも塞栓 を行った. そのほか,脾動脈や膵尾動脈からの新生血 管も認めたが選択挿入困難のため塞栓は行わず終了し た(Fig. 3B). 以上より、引き続いて行う摘除術の際 に,左腎上極,結腸脾彎曲部,膵体尾部,脾臓の合併

切除が必要となる可能性も示唆された.

術中所見:腫瘍塞栓術から3日後,左副腎摘除術を 行った、 約 20cm の腹部正中切開で腹腔内に入り, 下行結腸外側で腹膜を切開した、 結腸から腫瘍に入る 細かな血管はシーリングデバイスを用いて止血しなが ら,後腹膜腔で腫瘍前面を露出させた、 左副腎動脈は 術前 TAE によりすでに血流遮断されていたが、 結紮 切断し、脾下面で左腎上極と腫瘍の間も少量の出血の みで剥離することができた. 手術時間は 2時間50分で あった. 術中出血量は 682 ml,輸血は施行していな い、 腫瘍サイズは 13×12×10 cm,重量 652 g であっ た. 術前 TAE から3日後であったが, 術前の画像と 比較して、明らかな腫瘍の縮小効果は見られなかっ た.

病理組織所見:腫瘍は被膜に包まれており弾性硬 で、割面に出血壊死巣を認めた、 それ以外の部分は均 一で,黄白色の柔らかい腫瘍であった(Fig. 4). 腫瘍 細胞は中等大の類円形核と豊富な両染性の胞体を有 し、 結合組織性間質は少なく、充実性であった. 髄様 増殖を示し、大きな核も散見されるが, その頻度は少 なく、核分裂像は確認できなかった(Fig. 5A). 腫瘍 の構築が正常副腎に類似するような索状他の構造を示 しており、凝固壊死が見られているという点で Weiss の Criteria1,2) 9項目のうち2項目を満たしていた. Ki67 陽性細胞は 1%程度見られたのみであった(Fig. 5B). しかし,一般的に副腎腫瘍は病理組織学的な良 悪性の鑑別が困難であり,中心壊死が見られたことや サイズを加味し、低悪性度の副腎皮質癌と診断した.

術後経過:体重は術後 9カ月で 4kg 増えた、 術後 16カ月が経過した現在,再発·転移を認めていない.

Fig. 3. A : Left renal arteriography revealed the tumor was supplied by left adrenal artery (arrow 1) and left renal artery through upper segment of left renal parenchyma (arrow 2). B : Celiac arterography revealed the tumor was supplied by splenic artery (arrow 1), pancreas tail artery (arrow 2) and middle colic artery (arrow 3).

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Fig. 4. Gross appearance of surgically resected specimen of the tumor.

考 察

副腎皮質癌は全悪性腫瘍の0.02%程度とごく稀な腫 瘍である3). 内分泌活性の有無は3:2 の比率で4),活 性型のうち半数がクッシング症候群とされている5). 内分泌非活性型では腫瘍の増大に伴う症状により発見 される場合と,偶発的に画像診断で見つかる場合があ る. 近年の画像診断の進歩や検診の普及により,副腎 皮質癌全体の4.39.4%が偶発的に発見されている3) が,内分泌非活性癌のほとんどは症状出現後に発見さ れている. 症状で最も多いものは腹痛と腫瘤の触知で あり,その他に体重減少,衰弱,発熱,食欲不振,嘔 気,筋肉痛などがある4). 腫瘍の大きさについて, Dackiw らは、 215例の副腎皮質癌の診断時腫瘍径は 11.5±4.7cm(328cm)であったが,近年6cm 以 下の副腎皮質癌の報告も散見されると述べている6). 悪性を疑う画像所見としては、腫瘍径が5cm 以上7), CTで内部不均一,中心壊死,石灰化を認めること, MRI では T1 Low, T2 Highの腫瘍であること8),血管 造影では動静脈シャントや腫瘍血管の新生を認め る2),などとされている. 治療と予後に関して, Icard

らは、 副腎皮質癌253例全体の5年生存率は38%で, stage I 66%, stage II 58%, stage III 24%, stage IV 0 %だったと報告しており9,副腎皮質癌の予後は総じ て不良である. 治療は内分泌活性の有無にかかわらず 外科的切除が最も有効とされている. 外科的完全切除 を行った症例では生存期間が1328カ月であるのに対 して、切除不能例では39カ月4)ともされ、さらに 5年生存率は0~9%5)と言われており,外科的完全 切除を行うことが、予後の改善につながると考えられ る.

副腎皮質癌の良·悪性の診断は、他の臓器の癌の病 理組織学的鑑別診断に用いられるような細胞の異型性 や浸潤,細胞分裂像の亢進などの通常広く認められて いる病理組織学的指標が必ずしも有効でないとされて いる. このため多数の臨床ならびに病理組織学的因子 を総合的に判断し, scoring system を用いることによ り良·悪性の判断を下すことが行われている. 広く使 われているのは Wiess の Criteria であり, 1核異型 度, 2核分裂像の亢進,3異型核分裂像,4細胞質が 好酸性か淡明な所見を呈しているか否か?, 5腫瘍の 構築が正常副腎に類似するような索状他の構造を示し ているか否か?, 6凝固壊死の有無,7被膜浸潤の有 無,8 sinusoid (毛細血管)への浸潤の有無, 9静脈 浸潤の有無,の以上9項目のうち3項目を満たせば悪 性と診断することが可能であるが, Pohlink らは、 Wiess の score が 2 項目のみの腫瘍の中にも悪性の疑 いが強いものが存在するとしている10.本症例でも, Criteria 上は, 56 2項目のみを満たしているだけで あった. また副腎腫瘍では、免疫染色で Ki-67 陽性細 胞の占める割合が5%以上である場合は悪性と診断可 能であるとされているが, 今回の免疫染色では1%程 度のみであった、 しかし、臨床的には、患者は術前に 4カ月で20%近い体重減少と微熱を呈していたが術後 は改善しており、画像所見では長径 13cm と大きく

Fig. 5. A : Histopathological findings of the tumor (HE stain × 400). B : Immunohistopathological examination of Ki-67 shows positive staining for about 1% of all neoplastic cells (Ki-67 x 400).

30.

30μm

A

B

CT/MRI や血管造影でも前述の悪性所見を示してい た. 腫瘍内部には良性の場合は稀と言われる出血·壊 死が広く見られ、 重量も 652 g と大きかった、 これに 関して Sasano らは, 100 g を越えた副腎腫瘍66例のう ち腺腫は7%に過ぎず、残りはすべて癌であったと報 告している11). さらに, 術前に血管造影で左副腎動 脈のほか,左腎動脈,脾動脈,中結腸動脈からの腫瘍 血管の分岐が確認され、術中には多数の小血管が左 腎,脾臓から直接腫瘍に伸びており、これらの周囲臓 器からの血管新生は悪性を示唆するものと思われる. これらを総合的に検討し、本症例では副腎皮質癌と判 断した.

本症例は副腎動脈のみならず周囲から多数の腫瘍血 管により栄養され 652 g と巨大化した副腎腫瘍であっ たが, 術前に TAE を行い、無輸血で手術を施行しえ た. 一般的に副腎腫瘍に対して術前に TAE を行うこ とは非常に稀であり、調べえた限りでは現在までに報 告例はない、 他の臓器の腫瘍における術前 TAE の適 応としては, 術前の CT などで強い造影効果を認め出 血が予想される場合や既知の易出血性腫瘍などがあ り, 術前 TAE を施行することで手術手技の簡素化· 時間の短縮と出血量の減少が期待できる. また,乳癌 や肝細胞癌などに対しては術前に抗癌剤を腫瘍に分岐 する血管へ選択的に注入することで、高い腫瘍縮小効 果が得られるとされる12,13). 今後、今回の症例のよ うに術前の画像検査で多量の出血が予想され、出血の コントロールが難しく他臓器合併切除が懸念される場 合などには、 術前 TAE は有効な治療法であると考え られた.

結 語

今回われわれは、体重減少を契機に発見された巨大 な非機能性副腎皮質癌の1例を経験した. 腫瘍は周囲 臓器からの多数の新生血管を認め,他臓器合併切除の 可能性も示唆されたが, 術前 TAE を行うことで出血 量を抑えて腫瘍切除を行うことが可能であった、 若干 の文献的考察を含めて報告した.

文 献

1) Weiss LM: Comparable histologic study of 43 metastasizing and nonmetastasizing adrenocortical tumors. Am J Surg Pathol 8: 163-169, 1984

2) Weiss LM, Medeiros LJ and Vickery AL : Pathologic features of prognostic significance in adrenocortical carcinoma. Am J Surg Pathol 13: 202-206, 1989

3) 日本泌尿器科学会,日本病理学会編:副腎腫瘍取 扱い規約(第2版). Pp 35-36, 68-70,金原出 版,東京,2005

4) Linda NG and John ML : Adrenocortical carcinoma : diagnosis, evaluation and treatment. J Urol 169 : 5-11, 2003

5) Schulick RD and Brennan MF: Adrenocortical carcinoma. World J Urol 17: 26-34, 1999

6) Dackiw AP, Lee JE, Gagel RF, et al. : Adrenal cortical carcinoma. World J Surg 25 : 914-926, 2001

7) 尾身葉子,飯原雅季,岡本高宏,ほか:副腎皮質 癌に関する臨床的検討. 日臨外会誌 31:342- 345, 2007

8) Schlund JF, Kenny PJ, Brown ED, et al .: Adreno- cortical carcinoma : MR Imaging appearance with current techniques. J Magn Reson Imaging 5 : 171-174, 1995

9) Icard P, Goudet P, Charpenay C, et al. : Adreno- cortical carcinomas : surgical trends and results of a 253-patient series from the French Association of Endocrine Surgeons study group. World J Surg 25 : 891-897, 2001

10) Pohlink C, Tannapfe A, Eichfeld U, et al. : Does tumor heterogeneity limit the use of the Weiess criteria in the evaluation of adrenocortical tumors ? J Endocrinol Invest 27: 565-569, 2004

11) Sasano H, Suzuki T, Nagura H, et al. : Steroidogenesis in human adrenocortical carcinoma: biochemical activities, immunohistochemistry, and in situ hybridi- zation of steroidogenic enzymes and histopathologic study in nine cases. Hum Pathol 24 : 397-404, 1993

12) 小間 勝, 宗田滋夫,吉川幸伸,ほか:術前 TAE が奏効した進行乳癌の 1 治験例. 日臨外会 誌 54:2053-2057, 1993

13) 桝井誠三,佐々木 洋,今岡真義,ほか:肝細胞 癌に対する術前肝動脈化学塞栓療法(TAE)の施 行範囲の検討. 日消誌 88:2757-2762, 1991

Received on September 21, 2011) Accepted on December 2, 2011