下大静脈腫瘍栓·肝転移を伴う進行性後腹膜平滑筋肉腫に対し外科治療単独にて 病勢コントロールしえた1例
大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学講座(泌尿器科学)
| 久次米雄馬 | 河嶋 | 厚成 | 河田 | 信彦 | 竹澤健太郎 |
| 加藤 大悟 | 波多 | 野浩士 | 氏家 | 剛 | 阿部 豊文 |
| 福原慎一郎 | 藤田 | 和利 | 植村 | 元秀 | 木内 寛 |
| 今村 | 亮一 | 野々村祝夫 | |||
要旨:
74 歳,女性. 入院半年前から間欠的に右側腹部痛を自覚していたが放置. 腹部単純 CT で右上腹部腫瘤と下 大静脈の拡張を認め,当科紹介となった. 腹部造影 CT では,右上腹部に 15×12cm の不均一な造影効果を示 す腫瘍を認め、栄養血管は副腎動脈と考えられた. 下大静脈腫瘍栓と肝腫瘤も認め,副腎癌 cT4NOMl stage ⅣV と診断した. 約1カ月で病勢進行に伴う全身状態の増悪を認めた. 腫瘍栓によりうっ血肝を呈しており, 二次性 Budd-Chiari 症候群と診断した. 転移巣を含む腫瘍根治切除術を施行したところ、摘出標本は 1,100g で分葉状構造を呈していた. 腫瘍と副腎に連続性は認めず,病理結果は平滑筋肉腫であった. 術後6カ月時点 で再発なく生存中である.
(日泌尿会誌 111(4):145~149,2020)
キーワード:平滑筋肉腫,二次性 Budd-Chiari 症候群,Child-Pugh 分類
緒 言
後腹膜に発生する平滑筋肉腫は特異的な症状に乏し く、 進行した状態で発見されることが多い. 進行性後腹 膜平滑筋肉腫は下大静脈腫瘍栓を伴うことが報告されて おり、 腫瘍栓の伸長による2 次性 Budd-Chiari 症候群に より,急性肝不全の転帰を辿るとされる12).
今回我々は、 副腎癌との鑑別が困難であり,2次性 Budd-Chiari 症候群を発症した下大静脈腫瘍栓·肝転移 を伴う後腹膜平滑筋肉腫に対して外科的治療単独により 病勢コントロールをしえた1例を経験したため,文献的 考察を加え報告する.
症 例
患者:74歳. 女性.
主訴:右側腹部痛.
既往歴:胆のう摘出術(34歳時),左尿管切石術 (49 歳時).
現病歴:入院半年前から間欠的に右側腹部痛を自覚し ていたが放置. 症状増悪し前医受診. 精査加療目的に当 科紹介受診となった.
入院時所見:身長 152.5cm,体重59.0kg,血圧 153/92
mmHg. 右上腹部に手拳大の腫瘤を触知,弾性硬,可動 性なし、 右側腹部に間欠的な疼痛の訴えを認めた. Per- formance Status (PS) 0, Visual Analogue Scale (VAS) 5 点(10点満点)であった.
血液検査所見:血算·生化学所見では異常値なし、 腫 瘍マーカーは NSE 61.8ng/ml(正常値 13.8ng/ml 以下)と 上昇していた. コルチゾール 12.9μg/ml, ACTH 32pg/ ml, レニン活性 0.6ng/ml/h,アルドステロン 101.9pg/ ml, 総カテコラミン0.22ng/ml と内分泌活性は認めず非 機能性副腎腫瘍と診断した.
画像所見:腹部 CT にて右上腹部に 15cm 大の不均一 な造影効果を示す腫瘤を認め、肝実質および十二指腸へ の浸潤が疑われた(Fig. 1). 腫瘍栓は下大靜脈(level III : Neves and Zincke 分類)3),両側腎静脈に進展していた. 肝 S4 に辺縁優位の造影効果を認める長径 1.6cm の腫瘤 を認めた. 以上より,副腎癌 (cT4NOM1 : Union for In- ternational Cancer Control[UICC 第8版])と診断した.
各種検査を進めている1ヵ月半の間に病勢進行に伴う PS の低下, VAS の悪化を認めた(Fig. 2a). 同時に腫瘍 栓は横隔膜上に突出(level II→IV)し、腫瘍体積は約 17% 増大(652.4cm3→762.3cm3)した. 又, 肝転移の増大, 腫瘍栓による肝静脈の拡張を認め、うっ血肝を呈する2
受付日:2019年12月12日,受理日:2020年5月13日
木内 寛:大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学講座(泌尿器科学)〔〒565-0871 大阪府吹田市山田丘 2-2〕
E-mail: kiuchi@uro.med.osaka-u.ac.jp
C 2020 The Japanese Urological Association
赤矢印:腫瘍塞栓,青矢印:原発腫瘍,緑矢印:肝転移,黄矢印:腫瘍栄養血管
肝転移 腫瘍栓 腫瘍 栄養血管
Fig. 2 当科初診後の病状経過
(a)造影CT を元に作成した 3D 画像による病状経過 腫瘍栓の伸長,腫瘍体積の増大, 全身状態の悪化を認める. (b)造影 CT による肝静脈径および肝転移巣·血液生化学 所見の変化 腫瘍塞栓の伸長によるうっ血肝の症状を認める. PS : ECOG Perfor- mance Status, VAS : Visual Analogue Scale, Child-Pugh: Child-Pugh 分類
第5病日
第32病日
腫瘍栓の変化 横隔膜上に突出 (Level III→IV) 腫瘍体積の変化
静脈系 肝転移 肝臓 腫瘍栓 腫瘍 右腎
652.4 al→762.3 cm (約17 %増大)
静脈系 肝転移 肝臓 腫瘍栓 腫瘍 右腎
病日
1
10
16
24
42
PS VAS
0
0
0
1
1
5/10
5/10
7/10
7/10
7/10
第5病日
第32病日
肝転移の増大
腫瘍栓によるうっ血肝 二次性Budd-Chiari 症候群
肝静脈の拡張
(ALP, LDH)
(AST, ALT)
650
60
550
ALP
450
ALT
50
LDH
350
40
250
AST
30
(U/L)
(U/L)
病日
1
10
16
24
42
Child-Pugh
A
A
A
A
A
(a)
副腎
腫瘍
肝転移(S4)
右腎
原発巣
(b)
HE×10
HE×40
(c)
aSMA
Caldesmon
Desmin
Ki-67
(a) 原発巣(左)および肝転移巣(右)の肉眼所見 (b)原発巣の H.E. 染色 (左:弱拡大,右:強 拡大)(c)原発巣の免疫組織化学染色(陽性所見)
次性 Budd-Chiari 症候群と診断した(Fig. 2b). Child- Pugh 分類 A と肝予備能が保たれていたこと、他の代替 療法がないことから麻酔科,心臓血管外科,消化器外科 と入念な打ち合わせを行ったうえで手術療法を選択. 予 後改善には根治切除が必要であるため、肉眼的に十二指 腸への浸潤を認めた際は手術中止とする方針とした. 腫 瘍栓については一時的な静脈遮断で摘除可能と考えられ たため、人工心肺はスタンバイのみとした.
術中所見:胸骨下から臍下部まで至る正中切開および 臍部から側腹部にかけての横切開を加え、腹腔内に到達 した. 十二指腸との癒着は認めず容易に剥離可能であっ た. 心囊と横隔膜を一部切開して腫瘍栓の上部に到達し、 下大静脈を確保. すべての静脈を遮断後に,下大靜脈を
頭側より切開した. 肝静脈の高さ以下まで腫瘍栓を摘除 できたため人工心肺は使用しなかった. 下大静脈を縫合 した後に肝静脈血流を再開. 肝静脈以下の下大靜脈は人 工血管での置換は不可能であったが,右卵巣静脈が側副 血行路となっていたため、肝静脈から腎静脈の高さまで の下大静脈を右腎と共に合併切除を行い、尾側で右卵巣 静脈を下大静脈と端側吻合した. ここで肝臓外科と交代 し2カ所の肝転移巣を切除した.
手術時間は 536分,出血量は 12,830ml,輸血量は 14,050 ml(濃厚赤血球48単位,新鮮凍結血漿44単位,血小板 20 単位)であった. 手術標本は 1,100g,肉眼的には割面 上,右副腎近傍に分葉状構造を呈する灰白色充実性腫瘤 を認め、壊死領域を伴っていた. 腫瘤と副腎に連続性は
認めなかった(Fig. 3a).
病理所見:Hematoxylin Eosin 染色にて、肉眼的な腫 瘤に一致して、核形不整が目立ち、一部好酸性の細胞質 を有する紡錘形~多角形細胞が束状·錯綜状に増生して いた. 腫瘍細胞の核は一部 bizarre な大型核を認めるな ど多形性が目立ち,30(/10 視野)程度の核分裂像は認め た. 50% 未満に腫瘍性凝固壊死巣も散見された(Fig. 3 b). 免疫染色にて, αSMA, Caldesmon, Desmin が陽性 で, Ki-67 陽性率は 55% であった(Fig. 3c). Myogenin, MyoD 1, CDK 4, MDM 2, S-100, SOX-10 は陰性であり, pleomorphic leiomyosarcoma と診断した. 2カ所の肝転 移巣も同様の所見であり、確認できる範囲の切除断端は 陰性であった.
PS は術後 0に改善し,術後 6カ月時点で再発なく生存 中である.
考 察
後腹膜軟部肉腫のうち平滑筋肉腫の割合は23%と脂 肪肉腫に次いで2番目である4). 後腹膜原発の平滑筋肉腫 は女性にやや多く、男性では四肢や血管発生が多い. 症 状は他の後腹膜腫瘍と同じく、痛み,違和感,腫瘤触知 などであるが,特異的な自覚症状が乏しいため,診断時 にすでに大きな腫瘤を形成していることが多く、 2~4 割の症例で転移がみられる5).
治療は外科的切除が第一選択であるが,発見時に他の 臓器を巻き込んでいる場合には切除が難しく、手術で完 全切除を見込まれても 40~77% で局所再発する6). 放射 線療法と化学療法では原発巣の縮小を期待できるが,局 所再発率,転移ともに制御が難しいと言われ、 効果は限 定的であり長期予後に寄与しないことが多い.
画像評価では副腎癌との鑑別は困難であり?),後腹膜平 滑筋肉腫においては NSE が腫瘍マーカーとなりうる可 能性があるが, 確定診断に至るエビデンスはない8). 自験 例も当初は副腎癌として外科切除の方針を進めた.
副腎癌としては遠隔転移と不完全切除®)が,後腹膜平滑 筋肉腫としては腫瘍径 5cm 以上や不完全切除10)がそれ ぞれ予後不良因子となることが報告されている. 一方, 副腎癌や後腹膜平滑筋肉腫を問わず,完全切除できれば 再発時も再手術により長期予後が望めるとする報告もあ り,一方予後不良因子を有していても手術による長期生 存例の報告もあるとされる11)~13). 副腎皮質癌のガイドラ インでも、単発の転移巣が切除可能であれば原発巣を含 めた外科切除術は容認されており、全身状態を含めた手 術適応の判断が重要となる14).
当症例では、 進行性に腫瘍栓による二次性 Budd- Chiari 症候群が生じており,生検を含めた保存的加療を 行う余地がないと判断した. 症状の進行速度は腫瘍栓の 成長に依存し、慢性的に肝硬変を生じるだけでなく急性 肝不全の転帰を辿ることもあるとされ、根治治療として 腫瘍栓の摘除が必要となる12). 術前肝予備能の評価とし
て肝硬変の肝予備能評価に使用される Child-Pugh 分類 が用いられることが多く15),周術期合併症の可能性が高 い非代償性肝硬変(Child-Pugh 分類:B または C)は16), 当科での絶対的手術適応からは除外している.
自験例では術中の手術可否の判断を,高侵襲度の手術 である膵頭十二指腸切除術が必要となる十二指腸浸潤の 有無に設定した上で心臓血管外科,肝臓外科,麻酔科と 術前の入念な打ち合わせを行った.
手術加療への賛否は分かれるところではあるが、 手術 以外の保存的加療による治療効果が期待できない進行性 の症状を呈していた自験例のような場合,周術期死亡リ スクや術後の急速な病状悪化の可能性を十分に説明しイ ンフォームドコンセントを得たうえで、他科との十分な 準備と連携を行ったうえで外科切除を提示する必要性が あると考えられる.
結 語
下大靜脈腫瘍栓と肝転移を有する進行性後腹膜平滑筋 肉腫に対し、外科的切除術を施行し病勢コントロールし えた1例を経験した.
(当発表内容は第242 回関西地方会にて発表した)
文 献
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A CASE OF COMPLETE RESECTION OF PROGRESSIVE RETROPERITONEAL LEIOMYOSARCOMA WITH INFERIOR VENA CAVA TUMOR THROMBUS AND LIVER METASTASIS
Yuma Kujime, Atsunari Kawashima, Nobuhiko Kawata, Kentaro Takezawa, Taigo Kato, Koji Hatano,
Takeshi Ujike, Toyofumi Abe, Shinichiro Fukuhara, Kazutoshi Fujita, Motohide Uemura, Hiroshi Kiuchi, Ryoichi Imamura and Norio Nonomura
Department of Urology, Graduate School of Medicine, Osaka University
Abstract:
We present a case in a 74-year-old female patient whose initial symptom was right flank pain. Enhanced computed tomography showed a mass (about 15 × 12 cm) in the retroperitoneum, inferior vena cava tumor thrombus (Level III: Neves and Zincke system) and liver metastasis. The primary tumor exploded and inferior vena cava tumor thrombus caused congestive liver one and a half month later. Preoperative diagnosis was right adrenocortical carcinoma (cT4N0 M1 stage IV). We performed complete resection of tumor including metastasis. Pathological findings on the resected specimen revealed pleomorphic leiomyosarcoma, which was discontinuous tumor from the right normal adrenal grand. There was no evidence of local recurrence or metastasis after 6 months with no additional treatment.
(Jpn. J. Urol 111(4): 145-149, 2020)
Keywords: Leiomyosarcoma, secondary Budd-Chiari syndrome, Child-Pugh Classification
Received: December 12, 2019, Accepted: May 13, 2020
C 2020 The Japanese Urological Association