微量測定による副腎皮質各層のステロイド含量
福島県立医大第三内科
福 地 總 逸,中 嶋 凱 夫 東北大学医学部第二病理 笹 野 伸 昭,中 村 克 宏
Microdetermination of Corticosteroids in Adrenocortical Zones in Various Adrenal Diseases
Soitsu FUKUCHI and Katsuo NAKAJIMA
Dept. of Internal Medicine, Fukushima Medical College, Fukushima
Nobuaki SASANO and Katsuhiro NAKAMURA Dept. of Pathology, Tohoku University School of Medicine, Sendai
Since the relationship between steroidogenic activity and morphological differenti- ation is not necessarily clear in the human adrenal cortex, aldosterone (Al), cortisol (F) and corticosterone (B) from the adrenal tissues cut into four small pieces (capsule and glomeru- losa, outer fascicular, inner fascicular, and reticular zones) on a cryostat immediately after their removal at surgery were estimated by radioimmunoassay in 15 patients with adrenal diseases (8 primary aldosteronism, 1 idiopathic aldosteronism, 4 Cushing’s syndrome and 2 pheochromocytoma) and 8 control subjects with other diseases.
A larger amount of Al was contained in the outer fascicular zone than in other zones
in control subjects. Al showed a high value of 0.167.40 ng/mg tissue in adenomas of
primary aldosteronism and a low value of 00.25 ng/mg tissue in adenomas of Cushing’s
syndrome. A high value of Al was detected in idiopathic aldosteronism but not in the
remaining adrenal of primary aldosteronism. In Cushing’s syndrome, F showed a high
value of 2.58~12.3 ng/mg tissue in adenoma and a relatively low level of 0.77 ng/mg tissue
in carcinoma. A larger amount of F and B was found in the inner fascicular zone than in
other zones in the control subjects.
These results indicate that the corticosteroid content in each adrenal zone correlates with the morphological findings.
緒 言
副腎皮質のステロイド分泌機能の診断は通常,尿中または血中のコルチコステロイドないしその代謝産物
を測定することによって行われている。 しかし、これらの測定値は生理的にかなり変動するので、試料を採取 した時間や、生体の状態,食餌内容などを把握することが必要となる。 従ってこれらの測定値が直ちに副腎 皮質ホルモンの生合成あるいは蓄積の状態を反映することにはならない。すなわち副腎皮質の遊離細胞の組 織培養や副腎の微小切片のステロイド含量を測定することも必要となる. 特に副腎皮質は甲状腺の如く生成 されたステロイドホルモンを貯臓する能力を欠くので、副腎組織内ステロイド含量はその組織のステロイド 生合成能力をかなりよく反映すると考えられる「.
副腎皮質は形態学的に球状帯,束状帯および網状帯に分類され、球状帯からは電解質代謝コルチコイド, 束状帯からは糖質代謝コルチコイド,網状帯からは性コルチコイド,が分泌されるという機能局在論が有力 である . しかしこの様な副腎皮質の機能的分化は動物では明らかであるが、ヒトにおいては必ずしも明瞭 でない. これは、動物の場合と異り、ヒトの新鮮な副腎組織をうるためには、外科手術によって切除された 組織を利用する以外に方法がないことと、微量の副腎組織内ステロイド含量を正確に測定する感度の高い方 法がなかったためである. 最近副腎皮質の遊離細胞の組織培養が行われる様になり,またステロイドの測定 に radioimmunoassay が利用されて pg 単位のステロイドも測定可能となったので、理論的には副腎皮質組 織1mg内に含まれるステロイドも測定出来る様になった.
そこでわれわれはすでに開発した radioimmunoassay によるステロイド測定法を利用して,各種副腎疾患 患者における副腎皮質各層ならびに副腎皮質腫瘍の微小切片に含まれる各種ステロイド含量を測定すること により各種疾患の皮質各層のステロイド分泌機能について考察した.
2
S
3
実験材料ならびに方法
対象としたのは、原発性アルドステロン症(すべて 副腎腺腫)8例, 特発性アルドステロン症 1例,ク ッシング症候群4例(副腎腺腫3例,副腎癌1例)および褐色細胞腫3例であった. そのほかに、乳癌で治 療の目的で副腎全摘出を行った8例を対照として選んだ.
これらの症例の外科手術によってえられた副腎組織を、採取後なるべく速かに凍結し、立体顕微鏡下に鋭 利な剃刃を用いて 厚さ 約 0.5mmの切片とし,さらに顕微鏡下に 4層(Fig. 1),すなわち被膜および球状 帯(Ⅰ層),束状帯外層(Ⅱ層),束状帯内層(Ⅲ層),ならびに、網状帯および一部の髄質(Ⅳ層),に分け,重 量測定後,約3ml の冷却アセトン液(4℃以下)を加え、直ちに測定しない場合にはー20℃に保存した.
測定時,組織片を除くアセトン層を40℃以下で減圧乾固してのち,メタノール20ml に溶解して2分し,そ の1.0ml には 3 H-aldosterone(約10,000 cpm)と 3 H-hydrocortisone(約10,000cpm) を,他の1.0ml には 3H-corticosterone (約10,000cpm) を加え、共に40℃以下で減圧乾固した.
3 H-aldosterone と 3H-hydrocortisone を加えた試料については, hexane: benzene: methanol:water (1 : 9 : 5 :2.5) の paper chromatography により 30℃ に 5 時間安定後、 12時間展開した. その後, paper chromatogram scanner により 3H-aldosterone および 3H-hydrocortisone の位置を確認して切 りとり,それぞれ 5.0ml のメタノールで溶出した.
アルドステロン(A)相当部分のメタノール溶出液は,1.0ml ずつに分け、うち 2 本は回収率の補正のた め直ちに counting vial に入れ,他の2本は小試験管にとり、いずれも40℃以下で減圧乾固した。 これらに 含まれる Aはすでに発表した radioimmunoassay により測定した. ハイドロコーチゾン(F)相当部分の (3) メタノール溶出液は, 1.0ml ずつに分け、うち2 本は回収率補正のため直ちに counting vial に入れ、残り 3ml のうち,0.2ml 2本と0.02ml 2本とは小試験管にとり,さらに約1,000 cpm の 3 H-hydrocortisone を加え,40℃以下で減圧乾固した。これらについてすでに発表した radioimmunoassay によりF を測定し (1) た。 測定値としては、試料量0.2ml または0.02ml のうち、その B/F 比が標準曲線の感度のより高い部分に 一致した方を採用した.
3 H-corticosterone を加えたメタノール溶液1.0ml は Bush Bs system の paper chromatography によ り3時間展開後,paper chromatogram scanner により 3H-corticosterone 相当部分を切りとり,5.0ml のメタノールで溶出した、 さらにこれを1.0ml ずつに分け、うち 2 本は回収率補正のために直ちに counti- ng vial に入れ,他の2本は小試験管にとり,いずれも40℃以下で減圧乾固した。 これらの 試料に ついて (2) すでに発表した competitive protein-binding radioassay によりコルチコステロン(B)を測定した.
mean
700
70
30
60
aldosterone (pg/mg )
600
hydrocortisone ( ng/mq)
corticosterone (ng/mg)
500
50
400
20
40
300
30
200
10
20
100
10
0
I
II
II
W
0
I
II
I
N
0
I
II
Ⅲ
W
adrenocortical zone
実 験 結 果
1) 副腎組織内ステロイド含量の部位による差異:乳癌の1例の左副腎内ステロイド含量は, Fig. 2 に 示す如く,採取部位によりかなりの差が存在したが,皮質各層におけるステロイド含量の比率は採取部位に より差がなかった. すなわち採取した3切片のいずれも,A含量はⅠ層に多く内層程低値を示し、F含量は Ⅰ層よりもⅢ層に多く、B含量もF含量と同様Ⅲ層に多量に認められた.
mean
700
70
right
left
aldosterone ( pg/mg )
600
hydrocortisone ( ng/mg)
60
corticosterone (ng/mg)
60
500
50
50
400
40
40
300
30
30
200
20
20
100
10
10
0
I
i
I
W
0
I
I
1
N
0
I
II
1
W
adrenocortical
zone
次に,右副腎腺腫による原発性アルドステロン症の1例の腺腫以外の副腎組織内ステロイド含量の左右差 を検討した所, Fig. 3 に示す如く,A含量は右副腎の1切片を除きⅠ層に少く,Ⅱ ないしⅢ 層に高値を示 し、左右差は特にみられなかった. 各層におけるF含量の比率に左右差はみられなかったが、腺腫側の右副 腎含量は左副腎含量の5~9倍の高値を示した. B含量はF含量と異り左側副腎の方が右側よりも高値を示 したが,有意ではなかった. F含量もB含量もⅢ 層の含量が他層よりも大であった.
これらの測定結果から,同一の副腎でもその採取部位によりかなりの差がみられたので、以下にのべる実 験結果では同一の副腎について少くとも3ヶ所より組織切片を採取してその平均値について検討した.
mean
1000
control subjects
1000
left
aldosterone (pg/mg)
aldosterone ( pg/mg)
right
idiopathic aldosteronism
500
500
primary
aldosteronism
0
I
I
I
N
0
I
II
MIL
N
aldosterone ( pg/mg )
1000
Cushing’s syndrome
aldosterone (pg/mg)
1000
pheochromocytoma
500
500
0
I
I
I
N
0
I
II
MI
N
adrenocortical
zone
第54巻 第7号
2) 副腎皮質各層のA含量(Fig. 4):対照例における A含量は、副腎皮質の外層すなわちⅠ 層において 高値であった. 原発性アルドステロン症では、対照群に比し全例で低値を示し、各層間に差はみられなかっ た. 特発性アルドステロン症の1例のA含量は、左右副腎の全層において650pg/mg 以上の高値を示し,特 にⅠないしⅡ層において著明であった. 副腎腺腫によるクッシング症候群4例では、原発性アルドステロン 症と同様,全層で低値を示し、各層間の差は特にみられなかった。 褐色細胞腫では最外層(Ⅰ層)でやや低 値を示したが、特に対照例との間に有意差はなかった.
mean
100
control subjects
250
Primary aldosteronism
hydrocortisone (ng/mg)
hydrocortisone (ng/mg)
80
200
60
150
40
100
idiopathic aldosteronism-
20
50
left
+right
1.
0
I
I
HI
N
0
I
II
II
N
600
100
Cushing’s syndrome
hydrocortisone (ng/mg)
500
80
hydrocortisone (ng/mg)
400
60
$
pheochromocytoma.
40
40
20
20
0
I
II
HI
N
0
I
II
I
N
adrenocortical zone
mean
corticosterone (ng/mg)
50
control subject
primary aldosteronism
corticosterone (ng/mg)
100
90
40
80
idiopathic aldosteronism
70
30
60
50
20
40
30
10
20
-left
.
10
0
I
II
II
W
0
I
II
MI
right!
N
Cushing’s syndrome
pheochromocytoma
corticosterone (ng/mg)
5
corticosterone(ng/mg)
50
4
40
3
30
2
20
1
10
0
I
II
II
W
0
I
II
MI
N
adrenocortical
zone
3) 副腎皮質各層のF含量(Fig. 5):対照例では,A含量と異り,Ⅰ層では少量で、Ⅲ層の含量が最も 大であった. 原発性アルドステロン症と特発性アルドステロン症のF含量は対照例との間に有意差はなく, 各層間の差異も特になかった. クッシング症候群の腺腫以外の副腎皮質組織では全層で20ng/mg 以下の低値 を示し、各層間の差は特になかった. 褐色細胞腫の1例では全層で300ng/mg 以上の高値がみられたが, 他 の2例では対照例と同様の低値を示した.
0 4320
· 65
2000
40
10
o
aldosterone (pg/mg)
1500
hydrocortisone ( ng/mg)
0
30
corticosterone (ng/mg)
o
1000
20
5
0
o
o
500
10
0
8000
0
00
0
0
0
· adrenal adenoma
x adrenal carcinoma ☒
400
40
10
o
aldosterone (pg/mg)
hydrocortisone (ng/mg)
corticosterone (ng/mg )
300
30
0
0
200
20
5
0
100
10
0
o
0
x ☒
0
0
0
0
x ☒
0
× ☒
mean
×10-3
control subjects
×10-3
150
primary aldosteronism
50
50
0
o adrenal adenoma
40
40
right
4
30
30
0
€
€
20
20
left idiopathic aldosteronism
10
10
o
0
O
I
II
I
N
0
I
I
I
N
× 103
50
Cushing’s syndrome
x10-3
339 pheochromocy toma
o adrenal adenoma
50
x adrenal carcinoma
40
40
L
$
30
x
30
4
20
0
20
10
0
10
0
I
I
ME
N
0
I
II
MI
N
adrenocortical zone
mean
O 1139
1918
×10-3
control subjects
×10-3
20
600
500
left
400
300
idiopathic aldosteronism
₾ 200
3
right
€
10
$ 100
0
30
primary
20
aldosteronism
10
0
I
II
HI
N
0
I
I
II
N
×10-3 Cushing’s syndrome
×10-3
pheochromocytoma
400
· adrenal adenoma
50
300
x adrenal carcinoma
40
8
0
3
30
4200
4
20
100
10
×
0
0
I
II
II
N
0
I
II
II
N
adrenocortical zone
第54巻 第7号
4) 副腎皮質各層のB含量(Fig. 6):対照例ではF含量と同様Ⅲ層に高値であった。原発性アルドステ ロン症と特発性アルドステロン症のB含量は対照例との間に特に差がみられず、各層間の差異も特になかっ た. クッシング症候群2例では全層において2ng/mg 以下の著明な低値を示した. 褐色細胞腫では,対照例 と同様,Ⅲ 層のB含量が他層に比べ高値を示した.
5) 原発性アルドステロン症の副腎腺腫内ステロイド含量(Fig. 7):A含量は3例で800pg/mg 以上の 高値であったが、他の4例では、対照例の副腎組織内 A含量と同様の300pg/mg 以下の値を示した。しかし 腺腫以外の副腎組織内A含量よりは高値を示した. F含量は1例で65ng/mg の高値を示したが、他の6例で は対照群のF含量と同様の値であった .、 B含量はすべて7.0ng/mg 以下の低値を示した.
6) クッシング症候群の副腎腫瘍内ステロイド含量(Fig. 8):副腎腺腫のA含量は3例中1例で250pg /mg の値を示したが、他の2例では50pg/mg 以下の低値であった、 F含量は1例において38.2ng/mg のや や高値を示したが、他の2例では15ng/mg 以下であって、腺腫以外の副腎組織内含量とほぼ同様の値を示し た. B含量は 7ng/mg 以下であって、腺腫以外の副腎組織内含量と同様,他疾患の副腎組織内含量よりも低 値であった. 副腎癌組織内ステロイド含量はA,FおよびBのいずれも著明な低値を示した.
7) 副腎組織内ステロイド含量の比:副腎皮質各層の A/F 比は、対照例においては Ⅰ 層で最も高く,内層 に移行するに従い低値を示した. 原発性アルドステロン症3例の A/F 比は対照例と同様の型を示したが, 4 例では全層において10×10-3 以下の低値であった。 これに対し特発性アルドステロン症の A/F 比は,左 右共対照例と同様の値を示した. 原発性アルドステロン症の副腎腺腫の A/F 比は、3 例で50×10-3 以上の 高値を示したが、他の3例では対照例の副腎組織内 A/F 比と同様の値であった、 クッシング症候群の A/F 比はⅡ層で低値を示した. クッシング症候群の副腎腺腫の A/F 比は低値の傾向を示したが、副腎癌では対 照例のⅠ層と同様の値であった. 褐色細胞腫2例における A/F 比には一定の傾向はみられなかった(Fig. 9 ).
対照例の副腎皮質内の A/B 比は A/F 比と同様 Ⅰ 層が最も高く、内層に至る程低下した。原発性アルドス テロン症の腺腫以外の副腎組織内 A/B 比は副腎皮質各層間に差はみられず、いずれも30×10-3 以下の低値 を示した. 特発性アルドステロン症の左右副腎各層の A/B 比はいずれも100×10-3以上の高値を示した。 原 発性アルドステロン症の副腎腺腫内 A/B 比はいずれも90×10-3 以上の高値を示した. 副腎腺腫によるクッ シング症候群の腺腫以外の副腎組織内 A/B 比はいずれも高値を示し、副腎腺腫の A/B 比は1例で高値を, 他の1例で低値を示し、副腎癌の1例では低値を示した.褐色細胞腫では対照例と特に差がみられなかった (Fig. 10).
考 按
副腎腫瘍の局在の診断には、後腹膜腔気体注入法によるレ腺検査および副腎静脈撮影の如き形態上の変化 を検出する方法と, 131I- コレステロールを使用する副腎スキャンや副腎静脈血中ホルモン測定の如く副腎 からのステロイド産生の左右差を利用する機能的方法との二つが存在する . このホルモン産生の左右差を (6)
利用する局所診断法は,正常者の副腎皮質からのステロイド産生が均一で左右差がないという理論的仮定に 基いている。 しかしながら,正常人の副腎特に副腎皮質の大きさやステロイド産生が果して左右同一である のか否かの問題に関して、実際に測定を行って確認した成績はみられない。 最近これらの局所診断法が盛ん に行われる様になって、判定に困難を感じる症例が多く発見され、これらの局所診断法の結果と手術所見と の間に相異がある場合がみられる.
本実験の結果では、副腎皮質のステロイド含量は組織切片の採取部位によりかなり異なることが明らかとな った. この原因としては、同一副腎から組織切片を採取し,測定操作も同時に行ったので、副腎組織の採取 後測定までの時間が問題となるとは考えられない.またこの部位による測定値の差はかなり大きく、組織重
量測定上の誤りや,ステロイドの radioimmunoassay における測定誤差も原因とはならず、実際に同一の副 腎でも部位によりステロイド生合成に差異が存在することを示している。 さらに原発性アルドステロン症の 1例の両側副腎について検討した所、アルドステロン含量にはあまり大きな左右差がみられなかったが、F と Bについてはかなりの左右差がみられた. この場合,Fは腺腫の存在した右側に多く、Bは逆に左側に多 かったことより,腫瘍の機械的圧迫による影響は考えられない、すなわち正常副腎でもステロイド産生に左 右差があることを示唆する所見である. われわれ は、すでに 131 I- コレステロールを使用する副腎スキャ (4)
ンにより,腫瘍の存在しない場合でも副腎の映像に左右差のみられることがあるとのべた. さらに特発性ア (5) ルドステロン症の1例では手術により両側副腎の重量の差が存在することを確めた. この事実は副腎腫瘍 の診断の際の判定に副腎静脈血中ホルモン測定や副腎スキャンによって左右差が検出されたとしても、それ だけで腫瘍と診断を下すわけに行かないことを示している。
ヒトにおける副腎皮質の組織構造と機能的分化との関連については、動物と同様、機能的分化が明らかで
あるとする説とそれ程明確には分化していないとする両説が存在する 。 われわれは副腎組織を層状に分け (8) て、その中のステロイド含量を測定した結果、皮質の構造上の差異による或る程度の機能的分化が存在する ことを明らかにした. たとえばアルドステロンは副腎皮質の全層に検出されたが、特に球状帯ないし束状帯 外層に最も多く、ハイドロコーチゾンとコルチコステロンとはⅢ層すなわち束状帯内層に多量に検出された. その結果,A/F 比および A/B 比は外層より内層に行くに従って低くなる傾向がみられた. すでに著者らの うちの笹野 は、高血圧症や続発性アルドステロン症の如く、臨床的にアルドステロン分泌量の高い症例の (8) 手術摘出副腎をみると皮質の特に外側の層が発達し、リポイドに富む明るい細胞からなることを指摘し、ア ルドステロンは球状帯ないし束状帯外層から分泌されるとのべた. 本実験の結果はこの様な臨床的ならびに 病理上からの推測の正しいことを裏付ける所見である.
一方FおよびBの分泌に関しては, ACTH を投与した動物において副腎束状帯の過形成が,ステロイドを 長期間投与された症例では束状帯の萎縮が,知られており,本実験でも ACTH に支配されている F と B は 束状帯内層により多量に見出された、 この事実はFとBが束状帯内層で生成され,B は球状帯ないし束状帯 外層に移行してAが生合成されることを示唆している。 またいずれのステロイドも副腎皮質の全層において 見出されたことより,発生学的に副腎皮質は同一の細胞からなり,た、その位置する部位により産生される ステロイドの量が変化しているにすぎないと考えられる.
副腎腫瘍以外の副腎組織内A含量は、原発性アルドステロン症とクッシング症候群において著明な低値を 示し、各層の含量に有意差は見出せなかった. これは副腎腫瘍から分泌されている Aまたは F の電解質作用 により、レニン放出が抑制され,他層よりも球状帯ならびに束状帯外層からのAの生合成が低下したことに よると思われる. 一方特発性アルドステロン症の副腎組織内アルドステロン含量は両側共著明な高値を示し, 原発性アルドステロン症のA含量とは明らかな差を示した. すなわち原発性アルドステロン症と異り,両側 副腎皮質から同様に多量のAが産生されていることを示しており、このA含量の原発性アルドステロン症と 特発性アルドステロン症における差は A/B 比をみると更に明らかであって、原発性アルドステロン症では 50以下の値を,特発性アルドステロン症では 100 以上の値を示し、この比は両者の鑑別に有効と思われる. すなわち原発性アルドステロン症と診断して手術を行っても腺腫を発見出来なかった場合に、摘出した副腎 皮質の A/B 比を測定することにより対側副腎の腺腫の有無を診断することが可能である.
F含量については、原発性アルドステロン症,特発性アルドステロン症および褐色細胞腫では特に対照群 と差がなく、これらの疾患では下垂体副腎皮質系に異常がないことを示している。 これに対し、クッシング 症候群の腺腫以外の副腎組織では著明な低値を示し、かつ各層間の差異は認められなかった。 すなわち腫瘍 からのF分泌過剰により下垂体からの ACTH が抑制され、腫瘍以外の副腎 組織からのF 分泌が低下したた めと考えられる. Bに関しても,原発性アルドステロン症,特発性アルドステロン症および褐色細胞腫の副
腎組織では、対照群と同様,束状帯内層により多量であった. クッシング症候群では F含量と同様著明な低 値を示した.
原発性アルドステロン症の副腎腺腫内アルドステロン含量は腺腫以外の組織よりもかなりの高値を示した が,F とB含量は腺腫と腺腫以外の副腎組織との間に有意の差を認めなかった. クッシング症候群の副腎腺 腫のF含量は1例のみで高値を示し、他の2例では腺腫以外の組織内含量と特に差がなかった。 これはクッ シング症候群の副腎腺腫におけるF産生はかなり多いが、速かに血中に放出され皮質組織内に貯溜しないこ とを示している. またクッシング症候群の1例の副腎癌のF含量は周囲の副腎組織内含量より低値を示した. すなわち副腎癌では単位重量当りのF産生はそれ程多くないことを示している。 一般に副腎癌によるクッシ ング症候群では腫瘍がかなり大きくならないと症状を現さないという所見と一致する成績である.
總括ならびに結論
原発性アルドステロン症8例,特発性アルドステロン症1例,クッシング症候群4例(副腎腺腫3例,副 腎癌1例),および褐色細胞腫2例の他,対照として副腎疾患以外の症例8例の副腎皮質組織を顕微鏡下に 4 層(被膜および球状帯,束状帯外層,束状帯内層および網状層)に分け、直ちに重量測定後、アルドステロ ン(A), ハイドロコーチゾン(F)およびコルチコステロン(B)を測定した.
1) 副腎組織内ステロイド含量は、同一副腎でも部位により差があり,また左右差も存在した.
2) 対照例のA含量は束状帯外層に,F とB含量はいずれも束状帯内層に多量に認められた.
3) 原発性アルドステロン症の副腎腺腫以外の副腎組織内A含量は、いずれの層においても低値を示した. これに対し、特発性アルドステロン症の副腎組織内A含量は左右副腎の全層において 650pg/mg 以上の高値 を示した. クッシング症候群の腫瘍以外の副腎組織内FおよびB含量は、全層において低値を示し、各層間 に有意差は認められなかった.
4) 原発性アルドステロン症の副腎腺腫内A含量は高値を、クッシング症候群の副腎腺腫内F含量はやや 高値を示した. 副腎癌組織内ステロイド含量はA,FおよびBのいずれも著明な低値を示した.
5) 対照例の副腎皮質各層の A/F 比および A/B 比は、球状層に最も高く、内層に移行するに従い低値を 示した. 原発性アルドステロン症の A/F 比は、全層において10×10-3以下の低値を示したが、特発性アル ドステロン症では対照例と同様の値を示した. 副腎皮質内 A/B 比は、原発性アルドステロン症においては 30×10- 3以下の低値を示し、特発性アルドステロン症では100×10-3以上の高値を示した.
以上の結果から,Aは球状帯ないし束状帯外層,F とBは束状帯内層において産生されると考えられる. また,正常者における副腎皮質のステロイド産生は、部位により,また左右により差異があるので, 131 I- コレステロールによる副腎スキャンや副腎静脈血中ステロイド測定による副腎腫瘍の局在の診断の際に充分 な注意が必要である。 さらに原発性アルドステロン症と診断し、手術を行っても副腎腺腫を発見出来なかっ た場合、そのA含量または A/B 比を測定することにより,対側副腎の腺腫の有無を判定することが可能で ある.
文 献
1) 福地總逸,飯野正典,勝島一郎:Competitive prote in-binding radioassay による血漿 hydrocorti- sone の微量測定法,ホルモンと臨床,16:913-917, 1968.
2) 福地總逸:Steroid の competitive protein-binding radioassay, 医学のあゆみ, 66:527-530, 1968.
3) 福地總逸,勝島一郎,竹内孝彦: Radioimmunoassay による血漿 aldosterone 含量の測定,ホルモ ンと臨床, 19: 945-949, 1971.
4)福地總逸,中嶋凱夫,竹内孝彦,西里弘二,中村 護, 小川 弘 : 131 1-19- コレステロールによる副腎スキャンニング,核医学, 11:553-559, 1974.
5) 福地總逸,李 錫昌,小林 清,田野武裕,中嶋凱夫,竹内孝彦,西里弘二:副腎亜全摘により病状 の好転した特発性アルドステロン症の1例,診断と治療,64:882-886, 1976.
6) 福地總逸:副腎腫瘍の局在診断,臨床泌尿器科, 30: 367-375, 1976.
7) 笹野伸昭:副 腎の形態,皮質ホルモン分泌異常の病態生理との相関,ホルモンと臨床, 15: 677-683, 1967.
8) 笹野伸昭:副腎皮質の形態と機能,南江堂,東京, 1975, p. 1-19.
日 本 内 分 泌 学 会 雑 誌 第54巻 第7号
昭和53年 7月15日印刷 昭和53年 7月20日発行 (毎月 1回発行) 1 年金7000円
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